オーストラリアに来て1ヶ月程経ったころ、私はシドニー近郊のワイナリーに滞在した。そこにはオーナーの50歳代半ばの男性と私のようにファーム周りをしていたドイツ人の女の子2人との4人生活だった。ぶどうの収穫時期には4,5ヶ月早かったため、まだまだ緑色の小さな粒でしかないぶどうだった。ここではワインの在庫整理やブドウ畑の草取り、去年作られたワインのビン詰めなどの手伝いをした。毎晩自家製ワインで夕食を囲ったのはたいへんいい思い出だ。
ある日オーナーの友人が訪ねてきた。彼と一緒に夕食を食べ楽しい時間を過ごした。しかし彼は一向に帰る気配を見せない。泊まっていくのかと思ったがお客を泊める部屋などこの家には残っていない。私はその場の状況を理解するのにしばらく時間がかかったがようやくその意味が分かった。彼らは恋人同士だった。私にとって最大のカルチャーショックとも言える出来事だった。その日から約10日間私たちはゲイカップルと共に生活をすることになった。わたしはどうしてもゲイを受け入れる事ができなかった。見つめ合う二人の目、夜な夜な聞こえるベッドのきしみ・・。わたしは何か汚いものでも見るような目で2人を眺めていた。しかし私もゲイについて少しずつ考えるようになった。「同性愛者は病気なのか?」「どうしてそうなったのか?」「どうして多くの人に受け入れてもらえないのか?」
難しい事は分からなかったが1つだけ分かった事、それは「2人は決して何も悪い事はしていないし、誰にも迷惑はかけていない。ただ恋愛の対象が同性というだけであってそれは病気でない」ということだ。それから2人を少しずつ受け入れる事ができ、温かく見ることができた。日本ではまだまだ同性愛者に対しての差別も多くある。ここオーストラリアは世界的にもゲイが多い国だという事を後から知った。街中でも同性カップルを多く見かけるしそれに対して後ろ指を差す人はいない。最近では社会的地位の高い人の中にも同性愛者であることをカミングアウトし、次第に市民権を獲得しつつあるようだ。1992年にはゲイが軍隊に入る事を許可され話題をよんだ。このようにオーストラリアは固定観念にとどまらず常に新しい風が吹いているようだ。